ポーカーの世界トーナメント「WSOP」の魅力と、勝てる理由ーWSOPブレスレット保持者、池内一樹氏インタビュー

インタビュー
<池内 一樹(いけうち かずき) ポーカープレイヤー、 GGPOKER Team Japan。「ひゃっほう掲示板」管理人。 「フィル・ゴードンのポーカー攻略法」「エドミラーのポーカースクール」監修。2018年にWSOPチーム戦準優勝、2019 年に同じくWSOPで準優勝し、 日本人過去最高額である約9000万円の賞金を獲得。2022 年には優勝し日本人3人目となるブレスレット保持者となる。>

ワールド・シリーズ・オブ・ポーカー[1](以下WSOP)での日本人過去最高額賞金獲得および日本人3人目のブレスレット[2]獲得という輝かしい実績をお持ちのポーカープレイヤーの池内 一樹さん。
実は、まだ日本でのポーカー人口が少なかった黎明期から、書籍の監修やポーカー掲示板の立ち上げなど、日本のポーカー界の発展に貢献されてきた功労者でもあります。

まだ日本人の参加者がほとんど皆無だった頃からWSOPに参加し、輝かしい成績を残されてきた池内さんは、言わばWSOPのエキスパート。
そんな池内さんに、WSOPの魅力から勝つためのアドバイスまで、様々なお話を伺いました!

ポーカーとの出会い

ーまずはポーカーを始めたきっかけを教えて頂けますか?

2003年くらいに、オンラインで繋がっていた友達に勧められたのがキッカケですね。ポーカーめちゃくちゃ面白いよって言われて。

ー最初はどのようにポーカーを楽しんでいたのでしょうか?

日本各地にいる友達とオンラインで遊んでいました。種目はテキサスホールデム[3]です。あの頃は、ポーカーがまだまだ流行っていなくて、試行錯誤しながら遊んでいました。

今と違って、当時はノーリミットホールデム[4]も、リミットホールデム[5]も同じくらい人気がありましたね。

ーポーカーのスキルを上げる為に、どのようなことを勉強しましたか?

今のように情報が豊富ではないので、本当に手探りでプレイの仕方を模索していった感じです。みんな初心者でした。

朝から晩までただただポーカーに熱中していました。楽しいからどんどん経験値を積めましたし、その積み重ねた経験が今に繋がっていると思います。

情報交換の意味でブログを書いたりしていて、その延長で「ひゃっほう掲示板」[6]を作ったりもしました。

2006年、WSOPへ初参加

ー池内さんと言えば、2019年の賞金獲得や2021年の優勝が有名ですが、いつごろからWSOPトーナメントに参加されたのでしょうか?

初参加は2006年です。実は、最初のライブトーナメントがWSOPでした。

ーどのようなきっかけで参加されたのでしょうか?

オンラインのサテライト[7]で権利を獲得しました。その頃は、色々なオンラインポーカーのサイトが出始めていて、群雄割拠みたいな感じだったんです。

サービス合戦と言いますか、お得なサテライトがいくつもあって、200ドルの参加費で1万ドル以上のパッケージが保証されているのに、参加者は30人しか集まらないといったこともよくありました。

ー初めて参加した時の事は覚えていますか?

凄く緊張しました。

参加費が1万ドルなのですが、その当時は最初に配られるチップ[8]も1万点だったので、現金でプレイしているような、チップの重みをリアルに感じました。

ーその時の結果はどうだったんでしょうか?

最初はインザマネー[10]できなくて、初めて賞金を獲得したのが次の年、2007年です。

テキサスホールデムで1600人中の16位だったと思います。賞金は2万ドルだったかな。

ーそれ以来WSOPにはずっと参加し続けているのでしょうか?また大会の雰囲気など、どのように変化していったと感じられていますか?

全部ではありませんが、8割くらいの年は参加していると思います。

最初の頃はリオのポーカールームでWSOPが開催されていて、ポーカー関係のビジネスの展示会や宣伝があったり、アートやポーカーグッズが売られていたり、今とはちょっと雰囲気が違いましたね。

ポーカーがだんだんとブームになりつつあった頃で、主催者側も手探りで企画していたんだと思います。最初の頃は、モニター表示も小さいテレビでしたけど、今は大きなスクリーンを使って、円滑にトーナメントが進行しています。段々と洗練されていきましたね。

それから、昔はレイトレジスト[11]がありませんでした。遅刻したら終わりっていう緊張感がありましたね(笑)。

あとは日本人の参加者も、ほぼいませんでした。今は日本人もたくさん参加していますよね。去年のWSOPも、Twitterでちょっと確認しただけでも300人以上はいたと思います。

WSOPでの戦績

ーここからは、池内さんのこれまでの実績について伺いたいと思います。2018年に準優勝されているとか?

そうです。3人一組のチーム戦で、1000組くらい出ていたと思います。

チーム戦は、チームの仲間と好きな時に交代していいんですけど、基本的にトイレ休憩以外は私が主にプレイしていました。ファイナルテーブル[12]に到達した時に、チップも十分に持っていたので優勝の期待も大きかったですね。チップリードを活かして、プレッシャーをかけるプレイを意識していました。

ただその時に、他のプレイヤーからレイズ[14]が入っているのに気づかずにスモールブラインド[15]のポジションから大したことのないハンド[16]でオールイン[17]するというプレイミスをしてしまって。結局、その時の相手が最終的に優勝しました。

ー続いて2019年、 日本人過去最高額である約9000万円の賞金を獲得した時の話を教えて下さい。

2019年は2018年の時と全然違って特別仕様のファイナルテーブルで、放送もされる卓だったのでテンションが上がったのを覚えています。プロのプレイヤーも少なく、チップも私が全体の8割分くらい持っていて、優勝の可能性は高いと感じていました。

ただ一人のショートスタック[18]のプレイヤーが、オールインをきっかけにどんどん上がってきて、最後のヘッズアップ[19]の時には相手の方がチップが多かったんです。

この時は、あと一歩だったので、もちろん賞金は嬉しいんですけど悔しさもありましたね。

ーそして2021年にはついに優勝し、WSOPのブレスレット保持者となられたんですね。

そうですね。この時はオンラインがメインのトーナメントだったんです。参加費は1000ドルのワンデートーナメントで、始めから終わりまで、ずっとホテルの部屋でプレイしていました。

普段は、相手のいる競技ですし感情を表に出すことは少ないのですが、オンラインで部屋にひとりだけだったので、ポット[20]を取った時に小躍りしたりしてました(笑)

日本人3人目のブレスレッドホルダーになれて、本当に嬉しかったのを覚えています。その後2‐3週間くらい、少しテンションが高かったと思います(笑)

ーちょっと単純な質問ですみませんが、2019年の準優勝と2021年の優勝、どちらが嬉しかったですか?

優勝の時賞金は1800万円で、2019年の準優勝の時の9000万円とは額が全然違ったのですが、やはり喜びは優勝してブレスレットを獲得した時の方が大きかったです。

ポーカーを始めた頃の情報が全くない時代、その時でもかろうじてWSOPのファイナルテーブルの映像を見つけて、当時それを食い入るように見ていたのを覚えています。WSOPで優勝するとヒーローのようになれる、そんな強い憧れがありました。私はポーカー以上に、WSOPが好きなんですよね。

普通の人生で叶えられないような夢が詰め込まれている、それがWSOPの特別なところですね。

WSOPで勝つためには

ー池内さんが、WSOPでこのように継続的に成績が残せている最大の理由は何だとお考えですか?

トーナメントなので運の要素が大きいです。
もし私にアドバンテージがあるとしたら、一言でいうと「経験値」かなと思います。

経験値があることによって、緊張やマネープレッシャーを感じなかったり、なんとなく相手の考えが読めることがあったり、バブルやファイナルバブルでも硬くなりすぎない、などあると思います。

体調管理についても、「トーナメントで好調すぎたら興奮して寝付けない」という経験からしっかり睡眠をとるための対策をしたり、「食事後に眠くなる」という経験から一日一食にしてサプリを摂ったり、時差ボケ解消にサウナが効いた経験から、初日にサウナに行ったりしてコンディションを整えています。

ー普段、ポーカーで勝つ為にどのような事を意識してプレイしていますか?

人間を見てと言いますか、その人がどのような事を考えてプレイしているのかを常に意識しています。

ツールを作って相手の参加率をスマートフォンでカウントし、それを元に判断したりもしています。参加率の低い人がレイズ[14]で参加してきたら強い手だなとか、コール[21]なら弱いハンドだなとかは、相手を意識して見ていれば分かるようになるんです。

例えば、AIが最善としているプレイよりも、人間はブラフ[22]が少ない印象を持っていて、WSOPなどの大会では、そこが顕著に現れるような気がします。

ー今後WSOPに参加する日本人の方も増えてくると思いますが、そういった方々にアドバイスをお願いします。

焦ってミスプレイをすると心残りになるので、じっくり時間をとって判断をしてみてください。そうした悩ましい場面こそポーカーの醍醐味だと思います!

池内さんにとってのポーカーとは

ーこれまでのポーカー人生で、池内さんにとって一番嬉しかったことは何でしょうか?

もちろん大会で大きな金額を獲得した時は嬉しいんですが、それ以上に私がまとめたWSOPの体験記がサイトに取り上げられ、沢山の人に読んでいただいた事が嬉しかったですね。

先程も言いましたが、私はポーカー以上にWSOPが好きなので、その面白さを詰め込んだ記事を読んでいただいたことに感動しました。

ーでは、一番苦しかったことをお聞きして宜しいですか?

そうですね…好きな事をやっていただけなので、苦しかったっていう記憶はないです。

ほぼない(笑)。

ー池内さんは日本のポーカー界の黎明期から活躍されていますが、今現在の日本のポーカー界の状況をどう感じていますか?

2000年頃の日本のポーカー人口は、誇張ではなく100名くらいだったと思います。今はポーカーをプレイしたことのある人が200万人くらいだとも言われています。当時では、とても考えられないことですね。

有名な方もWSOPなどに参加していて、ポーカーブームが来ている真っ只中。素直に凄いなと思います。本当に凄い。

ーそんな中、池内さんは、これからどのような形でこれからポーカーと関わっていきたいとお考えですか?

今は、昔に比べ発信力のある方々がたくさんポーカーの魅力を伝えてくれています。そんな中で、自分にしかできないこと、今までの経験から得た私にしかできない事を伝えていきたいと思っています。

例えば、体験記をまとめたり、ポーカーのツールをつくったり、有望なプレイヤーを応援したりするような事をしてみたいですね。

もちろん、WSOPも続けて参加していくつもりです。

ー池内さんにとっての、ポーカーの魅力とは何でしょうか?

ポーカーは、やっぱりお金って側面もあるかと思います。10億円を手に入れられる機会なんて、普通はないですからね。夢がありますよね。

でも、それ以上に社交的に良い面が沢山あるのが魅力です。私は、ポーカーでとても人生が豊かになったと思います。普通では会えないような人達との出会いで、沢山の経験を積むことができました。

ーポーカーが上手くなりたいと思っている、ポーカーに興味を持っている読者へメッセージをお願いします。

技術的な側面だと、プリフロップ[23]のスターティングハンド[24]をしっかりと覚える事が重要だと伝えたいです。

ただ一番大事なのは、やはりポーカーを楽しむことですね。何かコミュニティに入って仲間と一緒にプレイすると得るものが多いですし、長く続けられると思います。

[1] WSOPと略される。ラスベガスで毎年開催されるポーカーの世界大会。

[2] WSOPの優勝者にのみ贈られる、チャンピオンの証となるブレスレットのこと。

[3] ポーカーのゲームの一種。各プレイヤーに配られる2枚の手札と5枚の共有カードで役を作る。

[4] ポーカーのゲームの一種。各プレイヤーに配られる2枚の手札と5枚の共有カードで役を作る。

[5] ポーカーの一種で、最低ベット額と最大ベット額が決められているゲームのこと。

[6] ポーカーの掲示板。FXや株などのマネーゲームの話題も挙がる。

[7] WSOPなどのビッグトーナメントへの出場権をかけたトーナメント。

[8] 現金の代用として用いるコイン型の板。

[9] ゲームに参加するために強制的に支払う必要のある賭け金。

[10] トーナメントにおいて、賞金を得ることができる順位に入賞すること。

[11] 開始時刻から遅れての参加受付のこと。

[12] トーナメントで最後に残ったテーブルのこと。いわば決勝戦。

[14] 自分の番で、チップを賭ける額を増やすこと。

[15] プレイヤーのポジション及びその賭け金のこと。スモールブラインドに座ったプレイヤーは、ブラインド(強制的に支払う賭け金)の半額を支払う必要がある。

[16] 手札のこと。

[17] 手持ちのチップをすべて賭けること。

[18] 持っているチップが少ない状態のこと。

[19] 一対一のゲームのこと。

[20] ハンド中に行われたすべてのベットからなる賭け金プールのこと。

[21] 自分の直前のプレイヤーと同じ額のチップを賭けること。

[22] 自分の手札が相手よりも弱い可能性が高いときでも強い手札を持っているように主張し、相手をゲームから降ろさせる(フォールドさせる)行為。

[23] 2枚の手札が配られた直後でチップをかける(ベットする)タイミング。

[24] 最初に配られる2枚のカードのこと。

[25] 自分より前の人が誰もレイズしていない状況でレイズし、参加するハンドのこと。

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