会社経営からポーカーのプロへ!鈴木拓也さん【インタビュー】

インタビュー

プロのポーカープレーヤーとして活躍されている、鈴木拓也さんにインタビューさせていただきました。鈴木さんは、世界大会で日本人最高位を経験された実績の持ち主です。

現在は新型コロナウイルスの影響で一時的に日本に帰国されており、テレビ番組『Nuts POKER』に毎週、出演されています。

鈴木さんにポーカーをはじめられたきっかけや、1日の勉強時間や勉強方法などを教えていただきました。

鈴木拓也さんは海外のライブポーカーを主戦場にされていたプロポーカープレイヤーで、2015年のWSOP「ポーカー世界選手権」メインイベントで日本人最高位に輝き、その後WSOP1500ドルイベントノーリミッドホールデムにてファイナルテーブルに進出し世界7位を経験。

現在はKKPOKERの専属プロに抜擢され、関西のサンテレビにて毎週放送されているポーカー専門番組NUTS POKERの解説としてレギュラー出演もされています。その他大型イベントのMC、解説などをつとめています。

きっかけはあるひとつのポーカー映画

ーーまず、ポーカーをはじめたきっかけを教えていただけますか?

ポーカーをはじめたきっかけは、一緒に会社を経営していた親友が『ラウンダーズ』という1本の映画を持ってきたことです。「絶対これ観て! この映画たくちゃんに向いている」「ポーカーという競技、まじ面白いから」という感じで勧められました。

『ラウンダーズ』はマット・デイモンが出演しているポーカーを題材にした映画で、司法学生が恋愛やライバルとの戦いを経て、世界選手権へ行く内容です。

この映画を観て、「かっこいいな!」と思ったのがきっかけです。親友には、感謝しかありません。

ーー映画がきっかけだったんですね。その後、プロになられたきっかけは何だったんですか?

そもそも、プロの中でも、いろいろな「プロ像」があると思います。たとえば、「ご飯を食べていけれればプロ」という人もいれば、「専業でやっていればプロ」という人もいます。

僕は、「企業から契約をもらってからがプロ」だと思っています。

僕はポーカーをはじめた当時に参加した世界選手権で、企業スポンサーがいる人たちの身につけているワッペンや控室を見て、プロに憧れました。

その後、企業スポンサーが付くeスポーツチームに所属させてもらい、「プロとしてスタートした」というイメージです。当時まだあまりポーカーが流行っていなくて、「eスポーツ」という単語が外に出はじめた頃でした。「eスポーツという要素でポーカーを流行らせたいな」と思いました。「オンラインポーカー = eスポーツ」という考えです。

オンラインポーカーをeスポーツとすることによって、競技性の部分を押し出していけるのではないかと。なので、当時、eスポーツのチームに誘われたとき、すぐに所属することにしました。これがプロになったきっかけです。

ポーカー学習のルーティンを心掛けた

ーー鈴木さんは1日何時間ぐらいポーカーに費やしているんですか?

海外に行ったとき、韓国とマカオに住んでいたんですよ。2016〜2020年くらいです。そのときは、ある程度決まったルーティーンで「1日8時間以上はプレイする」と心がけていました。

普通の人は8時間ほど働くので、それをプレイ時間の目安にしました。ただ、休日はスポーツや演劇を観に行っていましたね。

契約で決められた大会などには出ます。ただ、オンラインポーカーになってからは正直ほとんど勉強をしていないです。優秀な後輩に連絡して、「こういうシチュエーションになったんだけど」とアドバイスをもらう程度ですね。あと、WebサイトやYouTubeなどのメディアの情報が優秀なので、「インターネットで調べて気になるところをカバーする」という形です。

ーー具体的に教えてくださりありがとうございます。当時は週何日ぐらい費やされていたのですか?

海外に行って、3年ほどは1日8時間、週5日以上のペースで勉強していました。

だけど、ストレスがすごい業界なんですよ。ポーカーって。いろいろ考えすぎてしまい、「好きだったポーカーにいつの間にか支配されている感覚」になりました。ポーカーに支配されるのが嫌になってマイペースにしたら、今はほぼすべてがうまくいっています。メンタルケアですね。

ただ、プロとして本当は食事、座学、プレイといった決まったルーティンを守るのが1番いいと思います。

ーールーティンを守るのが1番いいというのは、eスポーツプレーヤーの梅原大吾さんが言っていましたね

梅原大吾さん、尊敬しています。彼の著作『勝ち続ける意志力』を読んで、影響を受けましたね。

つらい時期を乗り越える「逆算力」

ーー梅原さんはつらい時期を何度も乗り越えられているので凄い人ですよね。鈴木さんもポーカーをされる中でつらかった時期はありましたか?あれば、どうやって乗り越えられましたか?

ポーカーは同じ工程を繰り返すので、モチベーションを保つのがとても難しかったです。

なので、モチベーションが上がるような教材、たとえば、先ほどお話に出てきた梅原大吾さんのようなeスポーツで活躍されている人たちの動画や、自己啓発の動画などを観て、自分を奮い立たせていました。

特に、梅原さんの幼少期の映像は印象的でした。発売したてのゲーム『ストリートファイター』で、誰とも会話しない若くて尖がっている時代の梅原さんの映像です。その後、講演会に登壇されている梅原さんを見て、「人って変わるんだ」と変化に驚きました。

だから、僕は梅原さんにすごく影響を受けていると思います。

また、会社の経営を退き、いちポーカープレーヤーになったときに、迷走とまで行かなくても虚無感が出てきました。ポーカーを仕事として捉えられなくて、最初は「ゲームなのに何でこんなに嫌いにならなきゃいけないんだ……」「こんなゲームはやらなきゃよかった……」と悩みました。

いろいろ悩み考えた結果、「逆算力」を使うようになりました。

僕は仕事をするときは逆算をして、「この成果を得るには○○が必要で、そのためにはこういうステップ踏んだ方が良い」というのを考えながらやっていたんです。その逆算力を、ポーカーに当てはめるようになったんです。

具体的には、「オンラインポーカーのプロになりたい!」と思ったときに「プロになるにはどうしたらいいのか?」と考えて、好感度、喋り方、実力、実績を逆算しました。その結果、オンラインポーカーのプロになれました。

仕事と同じようにポーカーを捉えられるようになってきたときに、今まで悩んでいたことがすべてスッキリしました。「仕事だから考えることや苦痛を感じることは当たり前だよな」と思うようになりました。逆に、「好きなことを仕事にできていることが幸せだな」と。企業様からお金をいただいていること自体が、過去の自分からしてみたら羨ましいことですから。

なので、「逆算」して考えるようになってから、プロという立場に対してプレッシャーを感じることがなくなりましたね。

ーー仕事と同じように「逆算力」をポーカーでも活かされているのですね。今はどういう風に勉強をされていますか?

僕はほとんど勉強をしていませんが、おすすめはトライアンドエラーです。覚えたことを、まず勇気を持ってアウトプットすることです。これも梅原さんから、影響を受けているかもしれないです。

1日1個でいいから自分を成長させるために何かを試す。試してみて、繰り返して精度を上げていく。止まっていると周りの人だけが成長するので、絶対置いて行かれるんですよ。

1日1個、何か試してみても良い結果が得られないかもしれない。でも、それは後々の成長につながると思います。最終的な勝敗よりもその過程や自分のアクションを意識しました。当時はノートやメモを取って記録に残していました。

先ほどもお伝えしましたが、今の僕はオンラインポーカーのプロです。オンラインだとレイズ率やフォールド率がすべて表示されるため、正確なスタッツ(統計)を見ながら自分の弱点を意識するようにしています。僕のおすすめは KKPoker です。今日反省すべき数字があったら、それを見直しています。

「何となく無意識にプレイするのではなく、1日1個でいいので意図的にやる」ということを重視すると違う未来が見えると思うので、おすすめです。

「圧倒的な準備」が自信と勝利に繋がる

ーー1日1個の積み重ねを意識されているのですね。その他に試合で勝つために意識されていることはありますか?

他のeスポーツの人たちと一緒かもしれませんが、「圧倒的な準備」です。圧倒的に準備をすると自信がつきます。自信がつけば、相手のさまざまなプレーに対して対応、性格に対して調整ができます。なので、「圧倒的な準備」は大切です。

僕の弟はスポーツをずっとやっていて、今は監督をしています。弟と話すなかで一致するのは、オリンピックに行く選手がしているのは「圧倒的な準備」ということです。圧倒的な準備をしてきた自分に対して自信があるからブレない。

大会はあくまで、今までやってきたことを出すだけ。それ以下でも、それ以上でもないのです。

事前に準備することが圧倒的に大事だと思うから、学習したりプレイしたり、毎日準備し続けること。それが大きな大会のときに成果として表れると思います。

たとえば、ポーカーで言ったら ブラフで相手を下ろせそうな場面ですね。いきなり本番で大きなブラフを決めることって結構難しいと思うんです。でも、毎日、日々の中でイメージや学習し、「こういう場合になったらブラフした方が良い」と理解していれば、試合でも自信を持ってできる気がします。ドキドキはしますが、そのプレイを最善だと思えれば実行できるし、もし負けたとしてもベストを尽くしたので、精神的ダメージは少ないと考えています。

その状態に持っていくまでの、「圧倒的な準備」が大切だと思っています。

ーー「圧倒的な準備」が勝利の鍵なのですね。その他に鈴木さんがポーカーを通じて学ばれたことは何ですか?

ポーカーで学んだことって、正直言うとほとんどないんですよ。

僕は結構遅咲きというか、20代後半でポーカーを覚えたんです。なので、仕事で学んだ準備や考え方を当てはめてゲームをしているだけですね。

唯一学んだというか、変わったのはポーカーに対する考え方です。ポーカーは大好きなゲームで、すごく興奮もするため、ベストな職業だと思っています。

ただ、とても失礼な言い方かもしれないですが、極論を言うと、「ただのゲーム」です。「それ以上でもそれ以下でもない」ということをポーカーから学びました。

「本当にただのゲーム」。人生のすべてじゃないと思います。

若い人がポーカーでお金を稼げるようになって、年上の人に対して失礼な態度を取っているのをたまに見ます。ポーカーというのはあくまでゲームなので、勝っているからといって「人生の勝ち組」ということではありません。

人によっては、ポーカーは単なる趣味かもしれないし、ギャンブルかもしれない。「ただのゲーム」と思っていれば、幸せにポーカーと向き合えると思います。

コミットしすぎると苦しむ人も出てくる恐れがあるため、今は「ポーカーが100%じゃない」という考え方になっています。

ポーカー以外では叶えられない「繋がり」が生まれる

ーーいまポーカーがプレッシャーになってしまっている方にも届けたい言葉ですね。他にポーカーをされていてよかったと思うことはありますか?

結構シンプルなんですけど、有名スポーツ選手や大企業の社長さんたちと勝負ができることですね。普段会えないような人たちとも同じテーブルで真剣に戦い、コミュニケーションを取れるのがポーカーの魅力だと思います。

例えば、ポール・ピアースさんというNBAのスーパースターにお会いしたときに「一緒に写真撮ろうぜ」と言ってもらいました(笑)。サッカーで有名なブラジルのロナウドさんがマカオでチャリティのイベントをされたときに、一緒にポーカーをプレイして、サイン入りのユニフォームをいただいたこともあります。

有名スポーツ選手から「一緒にポーカーやろうぜ」と声をかけてもらうことは、普通に生きていたら、ほぼありません。

日本でも大企業の社長さんたちにポーカーや食事の機会をいただいて、普段聞けないような話ができるので、有り難いですね。いろいろな人とコミュニケーションが取れるというのが、ポーカーをやっていてよかったことだと思います。

ーーすごい人たちとコミュニケーションを取られていますね。ポーカーの大会で思い出に残っているエピソードには何がありますか?

「ワールドシリーズ」という、僕がポーカーをはじめたときからある世界選手権があります。世界選手権で優勝して、チャンピオンのブレスレットを取るというのは、ほとんどのポーカープレーヤーの目標だと思います。僕もその他のポーカープレーヤーと同じような感覚で、会社の仕事をやりながら2016年の世界選手権にも挑戦していたわけです。

当時は、トーナメントを楽しむ感覚でした。どちらかというと海外に腕試しに行くようなイメージで、世界選手権に参加したのです。

2016年の世界選手権では、ファイナルテーブルまで残らせていただきました。これが、僕の中の最大の転機になるんです。今までは仕事をしながらトーナメントに出て成績を残して、自分の中で満足感だったり、興奮だったりを感じていました。2016年のファイナルテーブルでは、世界チャンピオンが少しだけ見えたんです。

ただし、そのときにプロの人たちと圧倒的な実力差を感じました。最後の2、3テーブルってプロが多くなってくるんです。優勝した デビッド・ピーターズ 、他にもアルゼンチンやアメリカのプロたちがテーブルを囲んでいました。

プロと呼ばれている人たちのカードが見えているわけではないので分からないですが、アクションで負けましたね。

特に僕の中で印象深かったのは、やはりデビッド・ピーターズです。彼は24時間とは言いませんが、多分365日の中でほとんどの時間をポーカーに費やしています。

そのとき、「このままの生活リズムだったら、自分の中で悔いが残る」、「7位まで行けたけど世界チャンピオンは、とんでもない運が絡まないと今の僕ではなれないな」と思ったんです。

その気づきを得て、自分の会社をバイアウト(売却)して、一緒に会社をやっていた仲間に仕事を任せて、僕は海外に行かせてもらうことにしました。

「100%ポーカー漬け」にしようと決心して「カード2枚で生きられるのか?でも、生きてみたいな」と思いました。

当時、周りの人たちもポーカーで生計を立てはじめていて、「いくら稼いでいる」とか、「ご飯を食べていける」とか、「結婚する」とか、何かいろいろな話が聞こえてきました。「ポーカーで生活していけるんだな」と思った時期でもありました。

ただ、僕はお金を稼げるかどうかというよりも、好奇心の方が強かったですね(笑)。なので、この世界のプロの連中に勝ってみたいと思った、2016年の大会が思い出に残っています。

今後ポーカーは日本で爆発的に流行る

ーー会社まで売却されたのはすごいですね。鈴木さんから見て、日本のポーカーの今後はどうなっていくと思いますか?

日本でもポーカーは爆発的に流行ると思います。有名人がポーカーをはじめたら、ファンの人たちも始めるのではないでしょうか。ポーカープレーヤーも、人気の職業になると思います。ただし、僕を含めてポーカー業界全体の努力が必要になると予想しています。

スポンサーもプロも、お互いがベストを尽くすことが求められるでしょう。スポンサーは、プロというものに対してネガティブな発信を控えて、プロはいろいろなことに気をつける必要があると考えています。

たとえば、プロ野球選手なら、受け答え、反社、女子アナには気をつけているでしょう(笑)。プロとしての意識を持っている人たちが増えていくと、日当が5万円から10万円、20万円、30万円に上がるかもしれません。大会の賞金額も上がっていくでしょう。「プレイするだけでお給料が出る」、「契約しているだけでご飯が食べられる」という時代が来ると思います。

プロはスポンサーに対して、「俺はすごいんだぞ」ではなくて「使ってもらっている」という意識が大事だと考えています。スポンサーとプロの意識が変わっていけば、間違いなく日本のポーカー業界は、明るく発展していくでしょう。そのためには、お互いの努力が必要です。

ーープロに求められる能力は今後、変わってきそうですね。鈴木さんの今後の目標はなにかありますか?

プレーヤーとしての究極の目標は、最初から変わっていないです。世界選手権のメインイベントのダイヤが入ったブレスレット。本当の意味での、世界チャンピオンになりたいです。

なぜそれが明確な目的かというと最初に海外のポーカーで賞金をかけて、出場したトーナメントが WSOP のメインイベントだったからです。僕にとってはスタート地点であり、究極のゴール地点でもあるんです。

モチベーションだったり、やる気だったり、自分のパフォーマンスだったり、仕事が忙しくて出場しない年もありました。でも、死ぬまでにWSOPのメインイベントで優勝したいという気持ちは変わらないです。

これが究極であり、唯一の目標と言っても過言ではありません。札束を積んだあの場所で、ヘッズアップ(一対一のプレイ)をやってみたいですよね。

チャンピオンになったら、大会にはもう出ないかもしれないです。勝ち逃げです(笑)。

ーー素晴らしい目標ですね。読者にメッセージがあれば最後にお願いします。

まずはポーカーをやってほしいです。そして、ポーカーというゲーム自体を固定概念なしに楽しんでほしいです。

僕もそうでしたが、大人になると、仕事以外に興奮する機会ってあまりないと思うんですよ。大人になってからなかなかない興奮を味わえるのは、ポーカーの醍醐味でしょう。

多分スポーツに熱中した人には分かるでしょう。中学生や高校生のときに、甲子園を目指したり、サッカーで冬の選手権を目指したりした人ですね。その人たちも、ポーカーに触れたら、中学生や高校生のときの勝敗や、賞賛された何とも言えない感覚をフラッシュバックして味わえると思っています。

人によっては、中学生や高校生のときのように熱中できるので、まずはシンプルにポーカーをやって、楽しんでほしいですね。

ーー経営者からプロプレーヤーになられた鈴木さん。ご自身の経験を丁寧に教えて頂きました。貴重なお話、ありがとうございました!

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