囲碁のプロ棋士が語る、ポーカーの魅力 ー 内田修平八段インタビュー

インタビュー
<内田修平(うちだ しゅうへい)八段:囲碁棋士。2005年に15歳で入段。2008年に新人王を獲得。「黄金の椅子」と呼ばれるトッププロしか到達できない名人戦リーグにも2期在籍。2021年に、七段昇段後、規定の150勝を達成し八段となる。>

囲碁の棋士として活躍される内田修平八段は、実はプライベートではポーカーの愛好者でもあります。ポーカートーナメントの優勝経験もあり、現役のプロポーカープレイヤー達にも認められる程の実力の持ち主です。

ポーカーと囲碁、どちらも頭脳ゲームという側面はあれど、知っているようで知らない「未知の世界」。

今回のインタビューでは、そのそれぞれの世界の魅力、面白さについてお聞きしました。

ポーカー仲間とカジノに行ったのがキッカケ

ーーポーカーを始められたキッカケは?

10年くらい前に、囲碁の世界戦で韓国に行った時ですね。

その時は、対局後、棋士仲間と部屋でトランプをすることが多くて、その流れでカジノにも行ってみようかって話になりました。それが最初にポーカーに出会ったきっかけです。

ーー今はポーカーをどのように楽しんでいますか?

最近はコロナもあってあまり行けていませんが、たまに日本のアミューズメントポーカーに友人と行っています。

YouTubeで海外のポーカーの動画を見て勉強したり、日常的にポーカーを楽しんでいますね。囲碁の勉強に疲れたら、ポーカーをしてみたり。その逆も勿論あります。

ーーどちらも疲れそうですが(笑)?

いや、そんなこともないです(笑)。良い気分転換になったりしています。

ーーどんな練習をしていますか?

覚えたての頃は、ひたすら実戦を繰り返していました。試行錯誤を繰り返して、どうにかこうにか覚えていったという感じです。

だから、勉強をしたって感覚はなくて、ポーカーが面白いから熱中していたっていうのが正しいと思います。僕は好きな事なら何時間でもできるんですよね。基本的には勉強は苦手です。

今は、ポーカープロの方々と縁ができて一緒にごはんに行ったりすることがあるのですが、その際にポーカーの技術的なことを質問させてもらったりもしています。

ポーカーはさまざまな人と出会える場でもある

ーーポーカーをしていて良かったことはなんですか?

色々な人と出会えたっていうのが、いちばん大きいと思います。

僕は普段、囲碁の世界っていう、どちらかというと狭い世界にいるわけですが、外の世界の人と触れ合えると良い刺激が貰えますね。違う世界観を知れた事が凄く良かった。

例えば、マナベさん(PLO専門の元プロポーカープレイヤー)のやっているメンタルコーチとか、経営者の方とか、話を聞いていて本当に面白いし興味深いです。

15歳から囲碁の世界へ

ーー次は囲碁の世界についても少し質問させて下さい。内田八段は、何歳の時に囲碁の棋士になられたんですか?

15歳です。院生っていう制度があるんですけど、その院生のリーグで3ヶ月連続序列1位になって入段しました。

ーーでは、15歳から囲碁の世界で働いている?

そうですね。そういう風にあらためて言われると囲碁って凄い世界ですよね(笑)。プロを目指して院生に入ったのが12歳、14歳から師匠の家に内弟子(親元を離れ師匠の家で修業をする文化)として入っていまして、ずっと囲碁漬けの毎日です。

ポーカーと囲碁の違いは

ーーポーカーと囲碁、同じ頭脳ゲームですが、何か違いを感じますか?

読みの部分では似ている部分はありますね。 完全情報ゲーム と運の要素があるゲームっていう違いはありますが。ポーカーは駆け引きが醍醐味ですよね。囲碁では、そこまで大きな要素は占めません。

あと、僕のイメージというか、漠然とした感じなんですけど、思考というか、脳の使い方はちょっと違ってるかなと思います。どちらも勿論考えてはいるんですけど。

ーー具体的にお訊きしてよろしいですか?

そうですね、囲碁は、どちらかというと瞬間的なひらめきを大切にして考えています。

対局の時は、持ち時間っていって、考慮する時間が決まっているんですね。なので、余計なところまで考えてしまうと、時間が足りなくなるんで、囲碁は取捨選択のための直感が大事なんです。

若い時は時間を使っちゃうタイプだったんですが、経験を積んでいく事によって、ひらめきを大切にできるようになりました。

ーーポーカーの タイムバンク マネージメントのような?

ああ、そうですね。いかに大事な時に時間を使えるか、それを残しておくっていうのは、囲碁の世界では重要なんです。

逆に、ポーカーだと本当にじっくり考えてプレイしていますね。

ーー意外ですね。どちらかというと囲碁の方がじっくり考えるようなイメージでした。

勿論考えるんですけど、余計な事をいかに省いて考えられるかが肝要なんです。そういう意味で、同じ頭脳ゲームなんですけど、僕の中では、ちょっと違っていて。

ポーカーは、正解についてじっくり考えると本当に難しいです。

ーーポーカーと囲碁、取り組みの方法、勉強の仕方に違いはありますか?

ポーカーはひたすら実戦で、今思うとめちゃくちゃなスタートをしたなと思っています。基本的には、打ちながら反省するって感じを繰り返していました。

囲碁は、詰碁、棋譜並べ、実戦とバランスよく取り組んだと思います。僕は、囲碁の対局の記録を振り返る「棋譜並べ」が好きなので、その割合は多かったですね。

ーーポーカーでも囲碁でも、メンタルコントロールは重要だと思いますが、内田八段はどのように自分の感情をコントロールしていますか?

そういうメンタルのコントロールは重要ですよね。若い時はすごく気にして、対局で負けたらふさぎ込んでいたことはありますが、今は勝っても負けても淡々としています。勝つ時は勝つし、負ける時は負けるので。

勝負事ってどうしても勝ち負けがつくんですが、その世界に身を置いている経験によってコントロールができるようになりました。ポーカーでもその経験は生きていると思います。もちろん最初は バットビートとかがあると気になっちゃいましたけど、今は受け入れられています。 ティルトとかはしませんね。運の要素がどうしても絡むゲームですから。

まあ、囲碁は負けると自己責任ですよ。悪いのは全部自分なんで、受け入れないとやっていけませんよね。対局後に反省をしたりはしますが、それが終われば意識して忘れるようにしています。

ーープロポーカープレイヤーの印象はどうですか?囲碁の棋士と比べて。

囲碁界と比べると陽気な方が多いような印象です。

ポーカー業界の方は、コミュニケーション能力が高いなと感じています。

ポーカーと囲碁の今後の目標や未来について

ーーポーカーと囲碁、今後の目標は?

そうですね。囲碁は、大きなタイトルを狙うというよりは、目の前の1局1局を大切に取り組んでいきたいです。ポーカーも同じですね。目の前のハンドひとつひとつをちゃんと考えてプレイしていきたい。

あとは、コロナが落ち着いたら、海外のトーナメントに参加してみたいですね。1ヶ月くらい休めたらですが(笑)。

ーー棋士の方は、会社員とはまた違ったスケジュールだと思うんですが、休日はとりやすいんですか?

2週間くらいなら都合がつくかもしれませんけど、囲碁の対局を1ヶ月休むのは結構大変ですね。申請すればできない事もないとは思うんですが、やっぱり囲碁が本業なので。

ーーポーカーと囲碁、それぞれ良い思い出、悪い思い出を教えて下さい。

ポーカーは、そうですね、最初始めた時に フリーロール のチケットをもらったんですよ。無料でトーナメントに参加できるチケットです。もちろん、ビギナーズラックもあったんでしょうけど、その時、たまたま優勝できたのがめちゃくちゃ嬉しかったですね。

悪い思い出は……特にないです。最初の頃、沢山負けて悔しかったくらいかな。

囲碁は、そうですね、新人王を獲れた時も嬉しかったんですけど、2011年の名人戦リーグの決勝戦で趙治勲先生に勝てたことが一番の思い出ですね。

悪いのは、これは海外のメディアでも大きく扱われてしまったんですが、少し前に勝っている対局で自分の陣地に一手入れて半目負けをしてしまったことがあります。囲碁を打たない人にはピンとこないと思いますが、全く有り得ない負け方なんですよね。サッカーだったら、自分のゴールにわざわざシュートして負けてしまったような。

その時は、多少ですが、流石にメンタルは弱りましたね。1週間後の次の対局までには立ち直れましたけど。ポーカーもそうですけど、失敗って必ずあるので、そこからどう立ち直るかは重要ですよね。

ーー今後の日本のポーカーはどうなると思いますか?

今は徐々にポーカーが良いイメージの「競技」として捉えられてきていると思います。これからもっと認知され、競技人口は増えていくんじゃないでしょうか。実は囲碁棋士でもポーカーを楽しんでいる人は多いですね。

ーー最後に、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。

ポーカーも囲碁も、ずっとプレイしていられるくらい全く飽きなくて、奥の深い、面白いゲームです。このインタビューで、僕の伝えたいことが、ホンの少しだけでも伝わると嬉しいですね。どちらも一生楽しめるので、ぜひ一度触れてみて欲しいです!

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